2020年4月に新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)緊急事態宣言が発出され、多くの歯科医院が、この方針に沿って感染予防策を実施しました。患者さんの受け入れ数を制限し、診療時間の短縮や緊急度の高い治療に限定するなどを行いました。ご不便があったことと思います。
緊急事態宣言が解除されて以降、各歯科医院はウィズコロナとして歯科診療のあり方を模索し、新しいタイプの個人防護具(PPE)やエアロゾル発生感染防御技術・装置の導入等を行うとともに、不急と位置付けられた「予防的歯科診療」の再開を進めてきました。予防的歯科診療とは、定期健診とされるお口の健康状態のチェックや、普段の歯みがきでは落とせない歯垢(プラーク)などを、専用機器で取り除く歯の清掃等を意味します。

 お口の健康管理で大多数を占めるのは、むし歯と歯周病です。近年、むし歯と歯周病は早い段階で発見し、病状のリスクを把握して適切に対応することで、病状の悪化を止めて健全な状態への回復が可能となってきています。お口の健康管理は予防的歯科診療の中心で広く日常的に実施されていますが、緊急事態宣言下では、治療の緊急度の観点から延期を余儀なくされました。

 予防的歯科診療の長期間にわたる中断は、むし歯や歯周病の悪化を招きかねず、COVID-19の重症化に関連するとされる生活習慣病のリスク因子にも影響を与え、日々の生活と健康に悪影響を及ぼす可能性が極めて高いと考えられます。流行期がある程度終息した後、次の流行期が来るまでの間の流行間期には、先送りされた予防的歯科診療を受診して、お口の健康管理を万全にして感染しにくい状態を保つことが大切です(図)。
ご高齢の方や基礎疾患がある方で新型コロナウイルス感染へのリスクが高い場合、かかりつけ歯科医が予防的歯科受診を推奨するか判断いたしますので、まずはかかりつけ歯科医にご相談ください。流行状態およびむし歯・歯周病リスク別の予防的歯科診療推奨レベルの目安
新型コロナウイルス感染リスクとむし歯・歯周病の発症/増悪リスクのバランスで受診の推奨を決定する。
高齢者や糖尿病患者などCOVID-19重症化リスクが高い場合は、歯科医が推奨を判断する。
(日本口腔衛生学会新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策検討本部
新型コロナウイルス時代の口腔健康管理 – 課題と対応 – 一部改編)

 予防的歯科診療を介してのCOVID-19拡大事例や歯科医療機関での大きなクラスター発生は報告されていません(9月1日現在)。どうか安心して受診していただきたいと思います。

※本内容は、新型コロナウイルス時代の口腔健康管理-課題と対応- 日本口腔衛生学会新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策検討本部編をもとにしています。小川祐司先生(新潟大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学教授)

略歴

1968年東京生まれ。1994年日本大学松戸歯学部卒業。1996年シドニ―大学大学院歯学研究科修士課程修了。2001年新潟大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了。2003年WHO世界保健機関国際口腔保健部短期専門員。2011年新潟大学大学院医歯学総合研究科准教授。2014年WHO世界保健機関国際口腔保健部統括歯科医官。2018年新潟大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学教授。新潟大学歯学部学部長補佐

【その他】
WHO口腔保健協力センタ-長(新潟大学)。日本歯科医師会国際渉外委員会委員。FDI(国際歯科連盟)公衆衛生委員会委員。日本口腔衛生学会国際交流委員会委員長・同学会新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策検討作業部会委員

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                           つかもと歯科小児歯科医院 塚本浩樹 

ウィズ新型コロナウイルス感染症における 「予防的歯科診療」について

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